書評・レビュー

外食逆襲論 レビュー

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中村仁著【外食逆襲論】のレビュー記事です。

全体の感想まとめ

 

・外食産業の規模は今後、小さくなっていく
・今後、お客様へ「価値」を提供できない飲食は潰れていく
・飲食の3要素は「商品」「場」「人」
・他の店とどこを差別化していくのかを考える必要がある
・常連客(リピーター)をいかに作っていくかが勝負である

飲食業界に関わったことのない身として、今後のテクノロジーの発達とともに迎える時代で、どのような業態、どのような人材に「価値」があるのか(顧客へ価値を与えることができるのか)ということを考える機会になるいい本でした。
核となる「どのようにして顧客に価値を与えるか」「そしてそれに、テクノロジーをどう活用するか」は、飲食のみならず他の小売業にも当てはまるものかなと思います。今後の世界で、いわゆる小売業の店舗ビジネスが生き残っていくためには何が必要か、という発想を得て、少し深い視点から物事を見るための本としていい学びになりました。

レビュー詳細

いわゆる「飲食」の業界は、1997年をピークに減少傾向となっています。実に20年以上、減ってきている傾向にあるんですね。
その理由(飲食が持つ課題)としては「人手不足」と「労働環境のブラック化」が挙げられています。確かに一時期、居酒屋チェーンのブラックさが話題になったり、牛丼屋の深夜営業でのワンオペが話題になったりしてましたもんね。

そんな中で、この先にある飲食業界の未来とは何か。
飲食業界が復活するために必要なことは何か。
このような内容で一冊全てが語られていくわけですが、著者の中村仁さんは飲食店の顧客台帳・予約台帳をWEBで管理するサービスを扱う会社「トレタ」の創業者です。
この本を読んでいると飲食業界を復活させたい、まさに「逆襲」をしていきたいという思いが強く感じられます。

その流れにおいて、テクノロジーの発達により得られる知見というのが間違いなく重要になってくるということがあります。
かつては、メニューを暗記したりレシピを暗記したり、台帳を手で書いて管理したり、というところに「働いている人の価値」があった。今後それがゼロになるわけではないにせよ、その重要性は減っていきます。
AIが台頭してくる世の中では、機械が勝手にその仕事を請け負ってくれて、しかも人間よりも正確で効率もいいので、完全に置き換わられることになります。
最近だと「次のテクノロジーで世界はどう変わるのか」で次世代のテクノロジーについて学ぶ機会がありましたが、飲食においては「AI」による業務効率化・作業の自動化と、ビッグデータ活用による顧客サービスを作り出す、という部分が2つ、大きな柱になるかなと感じました。

これまで人がやっていて、今後AIがやるようになる仕事には、だんだん価値がなくなっていきます。それは、AIがやった方が正確で早くて圧倒的に生産性が高いので、絶対にその方向性になります。
その時に「これまでやっていたこと(これまでの労働の「価値」)」に固執してしまうと、衰退していってしまうことになります。
だからいち早くテクノロジーを取り入れて、お客様へ提供できる「価値」とはなんなのかということを追求していく必要がある。
そんなメッセージが込められているかと思います。

最後に残るのは、人間による血の通ったパフォーマンスです。たとえば、目の前のお客様のちょっとした仕草や表情から、いまお客様が求めているのかは何かを察して、当意即妙に対応する。不安そうなお客様がいたら、ほっとできるような言葉をかける。そんなスキルが、これからの飲食店で働く人たちには、求められるようになるかもしれません。
(Kindle版より引用 位置No.172〜)

今後、ではなくて「今既に現実化しているテクノロジー」だけを見ても、もうこの流れにはなっています。それこそ「トレタ」の予約サービスもそうですが、電話予約よりWEB予約の方が楽だし、何かしらのアカウントと連動していれば顧客データをそこから詳しく取って活用することもできる。
ただ少なくとも現在のAIでは、不安そうな人を不安そうだなと判断して声をかけるということは絶対にできないですし、落ち込んでいる気分の人に粋なサービスを提供するといったこともできません。
つまり、今後は「AIにできないこと」つまり「対面でお客様に提供できる価値」を追求していく姿勢が必要になるということです。
これは、飲食だけではなくて全ての店舗ビジネスに通じることかなと思います。
その中で、IT化の流れは絶対に避けられない。IT化をするかしないかではなく、することを前提にした上で店舗運営を考えていく必要があります。

著者は、飲食店を構成する3要素として「商品」「場」「人」を挙げています。
そして今後生き残っていくためには、これらの器用貧乏ではいけない、と。どれかに特化して、突き抜けたものを持っている店舗が生き残っていくとしています。

例えば、

商品に特化・・・ウーバーイーツ、レンタルシェフなど
顧客に提供する「場所」はそもそもないし、「人」の要素が全くないか少ない。

場所に特化・・・いい場所を提供して合コンや女子会の場とするサービス、など
食べ物飲み物は持ち込みなので「商品」は存在しない。いわゆるおもてなしをする「人」もいない。

人に特化・・・人と人との繋がりを意識したビジネスなど。
例として挙げられているのは「キッチハイク」です。キッチハイクは「食べるのが好き!という人で集まれる、食べ歩きが趣味になるグルメアプリ」です(公式ページの説明より)。
事業者からは「商品」「場」自体の提供は行われていないが、外食産業の一つである。

というような形で、実際に「尖ったところがある」業態が出てきて勢いを見せています。

後半は、飲食業界が生き残っていくために必要な「常連客作り」のための記述が多くなっています。
「今後、AIではなく人間にしか提供できない価値を最大化する」ということが、核になっているメッセージかと思います。

常連客を増やすには、まさにこれまで語ってきた「関係の時代」であることに留意して、「人間にしか提供できない価値」にリソースを集中させることが大切です。
(Kindle版より引用 位置No.1196〜)

僕は飲食業界に携わったことはありませんが、飲食のみならず全ての業界(の店舗ビジネス)にこの「顧客に対して、どんな価値を提供できるか?」という発想、そしてそれについて「自分が相手に価値を与えれば与えるほど、相手がまた別の誰かに価値を与えることにつながっていく」という、この「関係の時代」を生きていくにあたって、さらに広い視点を持っていきたいものだなと思いました。

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