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幸せな職場の経営学〜「働きたくてたまらないチーム」の作り方〜 レビュー

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前野隆司著【幸せな職場の経営学〜「働きたくてたまらないチーム」の作り方〜】のレビュー記事です。

全体の感想まとめ

・「働く人を幸せにする」ことを第一とする会社が生産性を上げる時代になってきた
・幸福度の高い従業員は、そうでない従業員よりも創造性が3倍高く、生産性が31%高くなるという研究結果がある
・人が幸せになる因子は4つ。「やってみよう!」「ありがとう!」「なんとかなる!」「ありのままに!」
・代表的な「幸せな4社」。伊那食品工業、ヤフー、ダイアモンドメディア、ユニリーバ。

幸せな会社の実例が書いてあることもあり、「ああ、この会社で働いている人はきっと、幸せな人が多いんだろうなあ」と感じることができる本でした。本は疑似体験になりうる、と言いますが、実際に企業の中で一緒にワクワクしているような気分になって、幸せな気分になる本でした。
人が幸せになる4つの因子、という側面から、幸せな会社となるためにはどうすれば良いのか、よくある疑問の解決から職場で今すぐできるレッスンまで、読みやすくてためになる本、という印象です。自分は経営者ではないので、考える視点は常に「会社内のあるチームのリーダー」という立場のものでしたが、参考にしたい内容が多くありました。

レビュー詳細

「幸福学」。それは、幸せに生きるための考え方や行動を科学的に検証し、実戦に活かすための学問です。

近年では「本質の時代になった」ということを耳にするようになりました。
会社経営で言えばそれは、「社員が幸せであること」がすなわち売上につながり、利益を生み、会社を成長させていくということになるのかもしれません。
幸せであるかどうかに関係なく、とにかく物を作れば売れた、というような時代は終わっているということです。

一方、残業の削減や有給休暇の取得増加といった「働き方改革」が叫ばれて久しい時代になりました。
マネジメントも、トップダウン型からサーバント型(支援型)や調和型など、様々な変革を遂げる時代と言われています。
そんな中でシンプルに効果を上げるために必要な視点が「職場が幸せであるかどうか」です。

幸福度が高い従業員は、そうでない従業員よりも創造性が3倍高く、生産性は31%高くなるという研究結果があります(心理学者のソニア・リュボミアスキー、ローラ・キング、エド・ディーナーらの研究)。
(Kindle版より引用 位置No.131〜)

人が幸せになる因子として、本書では4つの因子が挙げられています。

その4因子とは、次の図のように、「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)、「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)、「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)、「ありのままに!」因子(独立と自分らしさの因子)の4つです。
(Kindle版より引用 位置No.236〜)

第1因子「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)
社員が「やらされている」「やりたくない」という感じる状態ではなく、ワクワク働いている状態。
第2因子「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)
社内外の人間関係が良好で、感謝に満ち溢れていること。
第3因子「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)
リスクを許容して新しいことにチャレンジすることが推奨されること。
第4因子「ありのままに!」因子(独立と自分らしさの因子)
他者と比較することなく、自分のペースで自分らしさを大切にすること。

まずは業績を上昇させることが重要ですし、特に1人当たりの労働生産性が他の先進国よりも低い日本では、生産性をどう向上させるかが喫緊の課題と言えます。そのため政府は躍起になって「働き方改革」を掲げ、生産性を向上させることによって、社会全体の利益率を上げようとしています。しかし、そこですっぽりと抜け落ちてしまっているのが「幸せ」という視点ではないかと思うのです。
(Kindle版より引用 位置No.481~)

政府が主導する「いわゆる働き方改革」は、残業時間の削減や有給休暇取得率の向上など、「休む時間を増やすことで、仕事している間の生産性を上げましょう」という視点から行われています。
が、そもそも社員が「幸せ」な状態であれば生産性は向上するわけで、結果として残業時間が減り、有給休暇が取れるようになる、ということではないかと思います。
つまり、順序が逆。残業時間を減らし、有給休暇を取れるようになるから幸せになるのではなく、幸せであるから(生産性が上がり)、残業時間が減り、有給休暇を取れるようになる、ということなのではないかと。

・職場やチームにおける「理念・ビジョンの共有」
・チームメンバーへの「権限の移譲」
・チームメンバーの話を「傾聴」し、「対話」する姿勢
・チームメンバーの強みを引き出せるリーダーに必要なことは「愛すること」(コンパッション=深い思いやり・慈悲、リスペクト=尊敬)

本書ではこのあたりについて言及されています。全くその通りで、ゴールの共有さえできていて、それにチームメンバーが「ワクワクしている」状態を作り出すことができれば、自然とその方向へ向かっていくという、「管理しないマネジメント」が今の時代に即したマネジメントと言えるのかなと思います。

そして、それと同時に出てくる概念が「自己肯定感」です。

一方で、自分自身を愛することも大切です。つまり自己肯定感・自尊感情が高く、自己受容ができている状態です。自分を愛せなければ、他者を愛することはできません。自分を許し、認め、大切にするとともに相手も許し、認め、大切に扱う。
(Kindle版より引用 位置No.759~)

この記述には本当に共感します。先の記述で、リーダーとして必要な素質を一つだけ挙げるなら?という答えに本書は「愛」であると答えているわけですが、そのためにはまずは「自分が自分を認めてあげていないといけない」つまり、自己肯定感が高い状態が必要である、というのが今の自分の考えです。
自分自身の経験から言えば、リーダーとして必要なのがこういった「相手を認め、尊敬する」ということである、というのは知識として知っていても、なかなかその感覚には至れないものだと思いながらずっと仕事をしてきました。最近それが少し「お、できるようになったかな?」と思えるようになってきましたが、これは「自分には価値があるということを認識する」「不完全である自分を許容する」ということを意識して行うようになったからです。
自分を許容することで他人を許容できるようになり、それがチームメンバーに広がっていった時、そこに待っているのが「幸せな職場」という居心地のいい空間である、と思っています。

本書の中では「幸せな職場」の例として4社挙げられています。伊那食品工業なんかは「いい会社」の代表例として他の本でもとにかくよく出てくるという印象がありますね。

・伊那食品工業
日本で一番有名な寒天の会社、伊那食品工業。
社是は「いい会社を作りましょう」
会社はまず社員を幸せにするためにある、というのが経営方針として貫かれていて、受け継がれています。
「急激な成長は会社の敵と考え、需要があっても作りすぎない、売りすぎない」という経営方針は、寒天がブームになった時に「これは会社の危機である」と判断していたという話で有名です。
普通の会社はブームになったら喜んで増産すると思うのですけど、そのあたり、100年後を見据えているというだけあってすごい経営だなと思います。

・ヤフー
ヤフーと言えば自分の中の印象は「1on1ミーティングを確立した会社」でしたが、その他にも
「ジョブチェン」(ヤフーの中で新たな経験にチャレンジしたい場合、その希望を自己申告できる異動制度)
「どこでもオフィス」(通信環境があって連絡が可能ならどこで仕事してもOK)
「課題解決休暇」(業務以外の時間に誰かの課題を解決するために使える休暇)
「サバティカル休暇」(自己成長のための2~3ヶ月の休暇)
など、先進的な取り組みが行われています。
ヤフーを含むソフトバンクグループは、全体としてとても先進的、というイメージがあります。本記事とは関係ありませんが、ソフトバンクグループのバリューである「努力って、楽しい。」がすごく好きです。

・ダイヤモンドメディア
2017年度ホワイト企業大賞。
創立時の理念は「会社は、関係する人だけでなく、関わるものすべてに対して貢献できる存在でなければ意味がない」。ただし、経営理念はありません。
「給料は皆で決める」「働く時間、場所、休みは自由」「社員の給与、プロジェクト予算・内容などあらゆる情報をオープン化」など、昔ではきっと考えられないような経営の内容があります。

・ユニリーバ
2016年7月から「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」という取り組みを開始。
「上司に申請すれば、理由を問わず会社以外の場所で勤務可能」
「平日6時〜21時の間で自由に勤務時間や休憩時間が決められる」(1日の標準労働時間は7時間35分)
「全社員対象で、期間・日数に制限なし」(一部の職を除く)
というのが主なもので、普通の会社が考える枠を超えた取り組みを多く行っています。

会社に勤める多くの人にとって、いまだに仕事は辛いもの、幸せな生活とは別のものという思い込みがあるのではないでしょうか。
(Kindle版より引用 位置No.1292〜)

上記の記載はダイヤモンドメディアについて書いてあるあたりの記述ですが、特にダイヤモンドメディアとユニリーバの説明部分において「仕事=辛いもの、という暗黙の前提がありませんか?それって本当ですか?」ということが多く言及されています。
個人的にはこのあたりも「順序が逆」に当てはまるのではないかと思っていて、仕事が楽しいかどうかを決めているのは自分自身であって、「楽しくないもの」「辛いもの」という前提を自分の中で作ってしまっているから、どんどん楽しくないものになっていってしまうのではないかと。
そう考えたら、最初は嘘でも無理やりでもいいから「楽しい」を先に作ってしまった方が、エネルギーのある仕事を行うことがやりやすくなって、結果として本当に楽しい仕事が増えたり、ワクワクできたりしてくるものなのではないかと感じます。どうせ1日8時間仕事するなら、楽しい方がいいですよね。

ユニリーバの記事部分は、取締役人事総務本部長の島田由香さんに話を伺っているという形ですが、この島田さんの話は、痺れる部分が多かったです。

いまだに仕事は辛いもので、修羅場体験の場だとか、楽しんではいけないといった感覚を持っておられる方がいますが、私はそれが本当にもったいないと思うのです。
(Kindle版より引用 位置No.1354〜)

島田さんは言います。自分が理想とする「あり方」について、常に自分と対話し続けることが大切だと。
(Kindle版より引用 位置No.1402〜)

「苦手な人がいたとしたら、まずはその人の話を聞き、興味を持つことです。そして、その人の良い部分、自分が好きだと思える部分を見つけます。人は自分に興味を持たれていることがわかると、悪い気持ちはしないものです」
(Kindle版より引用 位置No.1690〜)

取り上げられている会社は、どの会社も先進的な取り組みを行っていて、社員の幸せを実現するために理想的な環境を構築していると言えそうですが、これも多分、最初からそうだったわけではないと思うのですよね。
「こういう会社にしたい」というビジョンをものすごく強く持っているリーダーがいて、それに共感する人たちが同じ理念を共有して、同じ目的に向かって取り組んでいるから、達成できるということになるのだと思います。

第4章ではこういった「こういう人がいるから」あるいは「こういう環境があるから」理想的なものにならない・・・というようなよくある疑問に対しての解決策が述べられています。
・部下がいつも受け身で、主体的に仕事を進めようとしない
・会議でメンバーが積極的に発言しない
・良い人材が採用できない
・上司を尊敬できない
・若手がすぐに辞めてしまい、育たない
・チームの雰囲気が悪い
・次世代リーダーが育たない
・ビジョンが浸透しない
・新規事業が生まれない、イノベーションが起こらない
・チームリーダーになったが、前任者と比べられて、やり辛い

解決策の中で、Google社が2012年から4年かけて実施した「プロジェクトアリストテレス」で結論づけた「生産性の高いチームの条件=心理的安全性が高いこと」についても言及されていますが、それを実現するための方法として、
・人の良い面を見る癖をつける
・自分の感情を客観的に見る「メタ認知」を行う
・相手は簡単に変えられないので、自分が変わるべきだという意識を持つ
・共有したいビジョンを本気で語る(伝わらないのは、伝え方が不十分だからである)
・他人は実に勝手に自分を評価してくるということを知る
このへんが、記述から得られた自分が「意識しておきたいこと」の感想です。

第5章では幸せな職場を作るためのレッスンについて書かれています。
・傾聴
・対話
・ウェルビーイングダイアログ1on1
・STOP!ザ・ネガティブワード
・メタ認知
・ブレインストーミング
・マインドフルネス
具体的にどのように行うかというところまで詳しく書かれているという印象で、参考になります。

しかし、始めるのは簡単です。「幸せに生きる」という人間の本質に戻るだけ。幸せになるための第一歩は、「幸せになると決める」ことなのです。わずかなマインドチェンジです。ここから自分が変わり、周りも変わっていきます。
(Kindle版より引用 位置No.2353〜)

6章の最後の方に書かれている文ですが、良い言葉だなあーと思います。ここにさらに意識を一つプラスするなら「行動を起こさなければ何も変わらない」という原則でしょうか。いい言葉だけ聞いていて満足するだけなら現状は変わらない。なりたい理想の姿に向かって、自分がやりたいと思うことをひたすら続けてみよう。
そう思わせるような、とてもいい本でした。

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